ASCO2019報告
ASCO報告
領域IIaディレクター 静岡がんセンター婦人科 安部正和
J-SUPPORTの核弾頭(内富先生命名)と言われたJ-FORCE STUDY(J-SUPPORT1604)が、構想から丸4年の時を経て、満を持して2019 ASCO Annual Meeting(Chicago, McCormick Place)で初回の結果発表をしました。Presenterは、研究事務局を務めた国立がん研究センター中央病院薬剤部の橋本浩伸先生。演題はOral Presentationに採択され、BEST of ASCO 2019のプログラム、Highlights of the Dayにも採択されました。
当初は、同じ構想を別々の二人(私と橋本先生)が手挙げするという事態で始まったこの臨床研究。J-SUPPORTがこの二人を協力体制に導いてくれ、全国30施設が参加、710人の被験者のご協力をいただき、シスプラチンを含む高度催吐性化学療法による悪心・嘔吐対して標準制吐療法+オランザピン5mgの併用が標準制吐療法よりも有意に成績を改善できることが示されました。本研究の結果により国際的な制吐療法ガイドラインおよびオランザピンを使った制吐療法の臨床試験が刷新されるものと思います。J-SUPPORT関係者の皆様、データセンターの皆様、参加施設の皆様に改めて御礼申し上げます。
ASCOで発表された支持療法領域の研究で印象深かったものを紹介します。
[Abstract 11507: Effects of exercise on cancer-related fatigue and muscular strength in patients with breast cancer]
主治療後のサバイバーまたは放射線治療中の乳がん患者を対象に、通常ケアに加えEXCAPというexercise programの介入効果を検証したランダム化比較試験です。対照群は倦怠感がやや増悪したのに対し介入群では倦怠感が有意に減少し、筋力も有意に増加しました。倦怠感、悪液質などは薬物療法のみでは改善が難しい領域である一方、患者ニーズの高い領域です。新しい抗がん治療による生存率向上や生存期間延長の発表が相次ぐ中で、“率”や“期間”の恩恵を受けたがん患者さんの生活や体調の“質”を改善することは今後ますます重要になるでしょう。”exercise”のような非薬物的介入という手段は、プラクティスと研究の両方において、我々の今後の課題になると思いました。
[ Abstract 6509: The impact of routine ESAS use on overall survival: Results of a population-based retrospective matched cohort analysis]
カナダからの大規模な後方視的研究で、PROであるEdmonton Symptom Assessment System (ESAS)を受けたがん患者と受けてないがん患者とで生存期間に差があるかどうかを検証したretrospective matched cohort studyです。オンタリオの8年間、約50万人のがん患者コホートからpropensity score matchingによる約12万9千人のデータが解析されました。ESASを受けた患者は受けていない患者より有意に5年生存率が長く、死亡リスクを下げた(ハザード比0.49)という結果です。また、その効果は治療期、経過観察期、緩和治療期のいずれにおいてもみられました。松本先生のJ-SUPPORT1603の研究もそうですが、新しい治療薬だけが予後を改善するのではなく、適切な支持療法やケア介入も予後改善につながるという重要な知見だと思いました。
[Abstract 11514: A randomized controlled trial of a novel artificial intelligence- based smartphone application to optimize the management of cancer-related pain]
がん性疼痛のコントロールにePROとAIを活用したePALというスマホアプリを用いた介入試験です。AIは患者の報告を分析してレスキュー使用などについて毎日患者にコーチングメッセージを出す仕組みです。ePAL使用群はコントロール群と比べ有意に疼痛レベルが下がり、疼痛による救急受診や緊急入院が有意に少なくなったという結果でした。明智先生が研究代表者であるJ-SUPPORT1703(乳がん患者の再発不安・恐怖に対するスマートフォン問題解決療法および行動活性化療法の有効性:無作為割付比較試験)もスマートフォンを用いた臨床研究です。スマートフォンやウェアラブルデバイスが普及してきた今、これらを用いた診療や研究は無視できない存在となってきております。病院にいない時の患者さんの状態=患者さんの日常生活、のリアルな情報が得られるので、そのデータの活用は患者さんの日常生活の改善に直結する貴重なデータになると思います。したがって、臨床試験においてもこれらを活用した研究方法を構築していかなければいけないと感じました。
以上、ASCO2019報告でした。
ASCO報告(写真)
橋本先生のOral発表
J-FORCE STUDY関係者でガッツポーズ
BEST of ASCO、Highlights of the Dayに採択されました