松岡領域Ⅲリーダーがサバイバーシップ・シンポジウムに参加いたしました
American Academy of Family Physicians、American College of Physicians、American Society of Clinical Oncologyが共催した 2018 Cancer Survivorship Symposium(オーランド、2018年2月16-17日)に参加してきたので報告する。
本会の歴史は浅く、2016年に第1回が開催されたばかりである。腫瘍内科医、内科医、がん専門看護師、Physician Assistant/Nurse Practitioner(日本では馴染みのない職種)、家庭医で75%を占め、その他はOT/PT、心理士など他の医療専門職、そして当事者であるがんサバイバーが参加していた。プログラムは教育講演、特別講演、一般演題、ポスター、ネットワークイベントで構成されていた。医療経済・就労、ケア支援、教育、コミュニケーション、健康増進、ガイドラインのあり方、長期治療の影響、心疾患を代表にした合併症リスク、心理社会的問題、サバイバーシップケアプランなど、サバイバーシップに関わる様々な課題を一度に議論する密度の濃い会であった。会期中500名ほどの参加者があり、ポスター会場には186の研究成果が並んだ。概ね女性が7割を占めていたこと、参加者と講演者で繰り広げられる喧々諤々の議論が印象的であった。
Ellen L. Stovall Awardを受賞されたPatricia A. Ganz, MD, FASCOによるCancer Survivorshipの30年史が課題を整理するのに役立った。なおEllen L. Stovall さん(1946-2016)は、米国最古のサバイバー主導の組織National Coalition for Cancer Survivorで16年間代表を務めた女性である。Ganz博士は、世界中で数百万人単位のサバイバー増加と高齢化、免疫療法の遅発性副作用に関する情報不足、合併症の負担、治療費増加に伴う経済的負担の身体的・心理社会的影響が新たな課題になることを指摘された。我々ができることは、身体・心理社会・経済的な悪影響を最小限にするためがん診断時からSurvivorship care planを伴うケアプランを実装し、二次がん予防・合併症管理・健康増進を促進するためがん専門医とプライマリケア医が協同し、サバイバーのニーズに合わせた医療システム介入に焦点をあてることだと述べられた。
自分の専門領域である健康増進のセッションでは、健康寿命を延ばすための運動・栄養の役割、肥満対策、禁煙指導に関する最新の情報を得ることができた。メンタルヘルス関連では、頭頸部がんとすい臓がんにおいて自殺が多いこと、がん再発恐怖はうつ病や重度の精神疾患とは関連が弱く、想定可能な心配と関連があることが報告された。我々が現在取り組んでいる運動の研究についても複数チームからポスター発表されており、研究者と議論できたことはよい刺激になった。J-SUPPORT領域Ⅲの研究を展開するうえでも収穫が多い内容であった。
昨年National Cancer Instituteで面談の機会を得たPaul Jacobsen 博士とJulia H Rowland博士の二人とも再会、近況報告をするとともに、日本でもSurvivorship研究を確実に進めていく意向を伝えた。勉強のあとは、サバイバーシップ支援部の高橋都部長、がん臨床情報部の富塚太郎研究員、がん研有明病院乳腺外科の片岡明美医師とフロリダのシーフードに舌鼓を打った。次回は2019年2月サンフランシスコで開催されるそうである。次回以降は研究成果を発表し、領域最前線の研究者と熱い議論をしたい。
2018.2.18
社会と健康研究センター健康支援研究部 松岡豊